病気ではありません、ということ
例えばの話です。
6か月の赤ちゃんがいます。「下痢をしている」との訴えで、お母さんが連れてこられました。
離乳食を始めたばかりです。
聞くと、一日に5、6回程度、水っぽい便が出るとのことです。
ご機嫌で、見るからに元気そうです。理学的所見(診察)でも特に異常はありません。
小児科医として、この後の対応をどうするか。
とっつかまえて採血やら便の検査やらレントゲンやら、するDrもいるかもしれませんが、
この段階でするのはごく少数派、というかほとんどいないと思います。
大抵は、以下の2パターンの、いずれかでしょう。
パターン①
A)軽いおなかのカゼ(胃腸炎)ですね。
元気は良いし脱水もありませんので、心配なさそうです。
P)念のため、整腸剤出しておきましょう。
パターン②
A)普通のいいうんちだと思います。病気ではないと思います。
元気は良いし脱水もありませんので、心配なさそうです。
P)念のため、整腸剤出しておきましょう。
A)は、アセスメント、つまり、問診や診察から導き出した、医師としての「解釈」「評価」です。「診断名」と言っても良いでしょう。
P)は、プラン、つまり、アセスメントに対して行う、具体的な今後の「治療」「方針」です。
面倒なことは省きますが、パターン①と②、医者の立場からすれば、意味合いはほとんど変わりありません。
おそらく、大多数の開業小児科医は、パターン①だと思います。
パターン①はつまり、こういうことです。
「はいはーいおカゼですねお薬出しときますねーお大事にどーぞー」
非の打ち所がありません。素晴らしい診療です。
「病名」(お腹のカゼ)と「治療」(整腸剤処方)の因果関係も、スッキリ爽やかです。
はいカゼー、はいお薬ー、はいサヨナラー、で、診療時間もあっという間です。
一方、パターン②はどうでしょうか。
病気だと思って来院された方に、病気ではないと説得するのは骨が折れます。
病気だと思って心配してきたのに、分かってもらえなかった、と思われるかもしれません。
お腹のカゼとでもいっておいた方が、万が一その後症状が酷くなったとしても、ああやっぱりですみます。
逆に、病気ではないと言った場合、病気ではないと言ったくせに、ということになります。
説明の手間と時間が猛烈にかかって、で、結局の処方は一緒、ってなんだそら。
ですので、大抵の小児科開業医は、(わかってやっているのかどうかは別として)パターン①を選択するわけです。
私は、パターン②でありたいと、そう思ってやってきました。
なんで?と言われても、単なる信念の問題ですので、どうしようもありません。
一開業医の選択としては、大抵のお医者さんは「おまえ、アホだろ」と言うと思います。
そうだよアホだよ(パークマンサー風)
そういう医者なんだと、どうか諦めてお付き合い下さい。