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育児書を捨てよ 赤ちゃんと笑おう その3

その2からの続きです・・・


か「いま、ざっと診察させてもらいましたが、現状としては、遅れている、とはいえないと思います」


 もう一度、この子の状況を簡単に整理します。

 お母さんが気にしている問題点としては、
  ・「まだ歩かない」
  ・「意味のある言葉(有意語)がない」
  ・「バイバイなどの物まねをしない」
 ということでした。

 さて、ここで大事になってくるのは、このお子さんが「1歳になったばかり」ということです。


 赤ちゃんの発達にはいくつか「決まりごと」があります。重要でかつ忘れられやすい決まりごとの一つに「発達には個人差がある」というのがあります。

 そして、それ以上に「意外と」忘れられやすい決まりごとが、冷静に考えればわざわざ言うのも憚られるぐらいのことですけれども、「発達を評価するには、タイミングがある」ということです。

 生後10日目の赤ちゃんで、「まだ歩かないんです」というのは当たり前ですし、3歳になるお子さんで、「まだ歩かないんです」は、明らかに異常と考えられると思います(ただし、この後者の場合でも、100%障害があります、とは言い切れないところが、また難しいのですが・・・)。


 特に、発達障害について書かれた本などで結構あるのですが、「こういう障害の子には、こういう特徴がありますよー」と羅列されているのはよいのですが、何歳ぐらいで、何か月ぐらいで、そういう特徴があれば、おかしいと思わなければならないのか、というのが、意外と書かれていなかったりします。

 例えば、自閉症児に特徴的とされる「内向きバイバイ」(逆バイバイ:手のひらを相手ではなく自分のほうに向けてバイバイする)は、バイバイし始めの頃は定型発達児にもかなりの頻度で見られます。バイバイをし始めた10か月児が内向きバイバイをするからといって、自閉症ではないかとご心配をされるのはナンセンス(というか、10か月でバイバイできるだけいーだろ・・・)ということです・・・

 機会があれば、このあたりのこともまたポツポツと書くことにしましょう。このままですと、どんどんどんどん脇道にそれて行きそう(私の外来中の話みたい・・・涙)なので、もう一度、この1歳のお子さんのことに戻ります。


 この子の、「1歳になったが、歩かない」「1歳になったが、有意語がない」「一歳になったが、バイバイなどの物まねをしない」はどう考えるのか。


か「1歳になったばかりのお子さんで、意味のある言葉が出ていないからといって、それだけで異常があるとはいえないと思います。あんよもそうですし、バイバイしないのも、それだけで異常があるとは取れないと思います」

 もうすこし言葉を継ごうとする私をやや遮る形で、お母さんが言いました。

「でも、私が調べたものでは、1歳になった時点で、定型発達児の90%がバイバイをするとありました」


 ・・・とてもよく勉強されているようです。


か「そうですね。バイバイについては、おそらくそれ位の頻度になると思います。でも、言い方を変えれば、1歳でも1割程度は余裕でバイバイしない、ということです」

か「わたしが出来るのは、現状として明らかにおかしいのか、小児科医として明らかに異常と取れるレベルにあるのか、という事です」

か「まず、そうですね、あんよの件からいくと・・・現状としてはつたい歩きもでき、麻痺(脳性麻痺)や筋肉の病気(神経・筋疾患)を疑わせる神経の異常もなく、歩くために必要な反射もしっかり出てきていますので、これは時間の問題、個人差の範疇と捉えて良いと思います」

か「で、その他の、言葉と、バイバイなどの物まねの・・・」


「その、歩くのが遅いのが、知的な発達遅滞や、発達障害によるものとは考えられませんか」


 これから話そうとすることの核心を言われてしまいました。外来が混雑してきたようですが、ここは正念場です。



その4へ続きます・・・

当院の待ち時間について

 当院は、丁寧な診察と説明を心がけています。


 小児医療・発達全般に対する幅広い経験・知識と、超音波検査を積極的に活用した診療で、何とか皆様のお役に立ちたいと、日々努力しております。

 分身の術が使えれば(いままで何度そう思ったかしれません!)別ですが、私の体は一つしかありません。

 聖徳太子のように、一度にたくさんの事を同時進行できるほど器用でもありません(むしろ、並列処理は苦手なほうです・・・)。

 丁寧な診察と説明を心がければ心がけるほど、お待ちいただいた一人一人に、お待ちいただいた時間に見合った医療を提供しようとすればするほど、待ち時間はさらに長くなると言う悪循環になります。


 事務的に機械的に、割り切って患者さん達を「捌く」事が出来れば、待ち時間は短くできることでしょう。

 患者さん一人当たりの売上(診療報酬)はほぼ決まっていますので、クリニックの経営上も数を捌けるほうが好都合です。逆に、そのような医療を望まれる患者さんがたも多くいらっしゃることと思います。

 でも、それでは、ちっぽけなクリニックではありますが、私なりの理想の医療を求めて開業した意味がありません。


 予約システム(i・CALL)の導入や、レセプト連動型電子カルテシステムの採用など、物理的に時間を削れそうな所は、可能な限りコストも割いて対応しております。患者様方やスタッフの動線等も含め、時間を削れるところはまだまだあるでしょうから、今後も待ち時間を短縮すべく努力してまいります。

 しかしながら、根本的なところでの待ち時間の短縮は、「(いわゆる律速段階である)私の診察・説明の時間をカットする」以外にはなく、そして、そうするつもりは全くありません。


 開業前からずっとそうなのですが、いつもいつも、お待たせして本当に申し訳ないと思ってきました。

 たくさんある医療機関・医師の中から、わざわざ私を選んで下さり、大切な時間を割いて(体調が悪くて辛い中となると尚更!)待って下さる。

 それに値する医療を提供できているだろうか、自問自答しつつ(時には自己嫌悪することもありつつ・・・)、少しでも喜んでお帰りいただきたいと思って参りました。


 いつも、お待たせして、申し訳ありません。そして、当院を選んでくださって、本当にありがとうございます。

 開業後まもないクリニックが、待ち時間について悩まなければならないほど多くの方々に御来院いただいていること、本当に感謝の言葉もありません。


 今後も、お越し下さった皆様に、少しでも喜んでいただけるよう努力してまいります。今後もどうかよろしくお願いいたします

育児書を捨てよ 赤ちゃんと笑おう その2

その1からの続きです・・・


 うちの子はもうすぐ1歳なのに、10か月でバイバイしないと精神遅滞が疑われるなんて・・・10か月健診では何も言われなかったけど・・・。

 「異常かもしれない」・・・そう思い出したお母さんは、そういえば、手の使い方も下手なのではないか、とか、名前を呼んでもあまり振り向かないわ、とか、赤ちゃんの行動一つ一つを、まるで試験監督のような目で見てしまいます。

 今のは良いんじゃないの、って思ったり、ああ、やっぱりダメなんだ、できないんだ、って思ったり。そんな自分に嫌悪感を感じつつも、そういった、我が子をテストするような目で見てしまう・・・。

 今まで、可愛い可愛いだけで育ててきたのに。この子が笑ってくれるだけで、この上なく幸せだったのに。

 忙しくも、ゆったりと、幸せに過ぎてきた我が子との日々は、いついつまでに○○できる子が・・%と、カレンダーに追われる気の休まらない日々に変わってしまいました。これが出来ないと、やれ自閉症かも、あれが出来ないと、やれ精神遅滞かも・・・。

 育児書やインターネットで仕入れた知識に振り回されて、日に日に、家庭の太陽であるお母さんから、笑顔が消えていきます。


 さて、ちょうど1歳のお誕生日を迎えた頃、この母子が私の外来を訪ねてくれました。
 
 お母さんは、かなり不安げなご様子で、診察室に入ってきました。 赤ちゃんも、そんなお母さんの雰囲気を察したのか、緊張して今にも泣き出しそうな様子です・・・。


「発達が遅いようなのですが・・・」

か「はい」

「1歳になったのですが、まだ歩かないし、言葉も出ないし、バイバイなんかもしないんです」

か「なるほど。1歳になったけど、あんよも言葉もまだ、バイバイとかの物真似もしないんですね」

「発達遅滞や、自閉症とか・・・発達障害とかの可能性はないですか・・・」


 お母さんは、病名をさらりと言った風を装っていましたが、意を決して搾り出すように口から出したのがよく分かりました。

 この時点で、お母さんがすでに色々な知識を仕入れているだろう事は、容易に想像できました。もしかして、私なんかよりよく知っているかもしれません(笑)。

 いつもいつもそうですが、こんな時、どのようなスタンスで答えを返すかは、本当に悩みます。返す答えの内容は結局一緒なわけですが・・・。


 一通りの診察を済ませてから、私は、わりかし直球(?)に近い球を返すことにしました。


か「現在のご様子からは、この子が発達障害なのか、それとも、正常の範囲内なのかは、神様しかご存じないと思います」


 お母さんの表情が、少し曇ったのが分りました。

 瞬間、「しまった」と思いましたが、こうなったら後には引けません。自分の無神経さを恥じつつも、構わずそのまま、説明を続けました。



その3へ続きます・・・

育児書を捨てよ 赤ちゃんと笑おう その1

 赤ちゃんたちはこの世に生を受けたその時から(既にママのお腹の中にいるときから?)、もう本当に嫌というほど(笑)の個性のカタマリです。

 生まれてすぐの新生児でも、よく泣く子、おとなしい子、活発な子、過敏な子、どっしり構えている子、いきなり良く飲む子、食が細い子、なんだかむずかしい哲学者のような顔をしている子、なんか良いことあったの?と聞きたくなるような、満ち足りた顔をしている子・・・一人一人すべて違います。みんな違って、みんないい、って誰か言ってましたっけ?

 初めての育児、分からないことだらけで不安。何かあったらすぐに調べられるよう、育児書があった方が安心なんじゃないですか?・・・ええ、お気持ちはよく分かります。

 でもね、いくら育児書を読んでも、不安がなくなるわけではありません。あくまで参考、と思って読んだとしても、育児書と一字一句違うだけで、さらに不安が募るのが、親心というものです。


 例えば・・・、の話をしましょう。

 ここにもうすぐ1歳のお誕生を迎える赤ちゃんがいるとします。親孝行なことに、これまで風邪ひとつひかず、元気にすくすく育っています。まだひとりでは歩きませんが、つたい歩きはお手のもの。おもちゃをポイポイ放り投げてお母さんを困らせています。でも、まだバイバイ、パチパチ、ニギニギなどの物真似をしません。

 7か月、10か月の健診でも、「順調ですね」と言われただけでした。お母さんは何にも不安に思うことなく、忙しいけれど、愛しい我が子との幸せな毎日をすごしていました。

 心配の始まりは、同じ産院で、同時期に出産したお母さん友達との会話でした。

 出先で偶然出会い、もうすぐ1歳だね~、なんて話を始めたのはいいのですが、聞けばその子はもう歩いているし、パパ・ママなんて意味のある言葉をすでにいくつか話しています。しきりに指さしもします。バイバイ、パチパチなんてお手のもの。ちょうだい、ありがとう、なんてふりもしたりして。

 自分の子とのあまりの違いに、お母さんはびっくりしてしまいます。早いわねぇ、うちの子はまだ一人では歩かないし、バイバイなんてしないわ、と、気にしていない素振りを見せますが、内心は気になって気になって仕方がありません。何となく凹んだ気分で、お友達と別れました。去っていくお友達の背中が、何となく得意げに見え(てしまい)ます。

 心配になったお母さん。家に帰ると早速、本棚の片隅で埃をかぶっていた育児書を見てみます。11か月頃の赤ちゃん、というページを見ると、「バイバイ」「パチパチ」などの物まねが上手になってきます、意味のある言葉をいくつか言う赤ちゃんもいます、などと書いてあります。一応、ページの隅の方に、「発達には個人差があり、これらはあくまで参考です」などと書いてあるのですが、そんなものもう目に入りません。

 最近のお母さんですと、次はインターネットです。片っ端から、育児のブログやサイトを漁ってみます。「8か月、バイバイできました♪(はぁと)」なんて書いてあったりして。

 調べれば調べるほど、不安がどんどん大きくなっていきますが、こうなるともう、それでも調べずにはいられません。

 お母さんは、よせばいいのに育児書どころか、発達に関する医学書を購入しました。パラパラとめくってみると、さっそく気になる記述を見つけました。


<10か月健診でみられやすい異常所見>
・「ニギニギ」「バイバイ」などの真似をしない(疑われる疾患:精神遅滞)
 (「写真でみる乳児健診の神経学的チェック法(前川喜平著、南山堂)」より)



その2へ続きます・・・

よろしくお願いします。


 はじめまして。川崎市高津区子母口にある、かわかみ小児科クリニックの院長、川上章弘(かわかみあきひろ)です。

 平成24年6月3日、なんと日曜日オープンという衝撃的な(!?)開院をして以降、多くの素敵な患者様方と素晴らしいスタッフに恵まれ、日々充実した日々を過ごしております。

 このブログでは、日々の忙しい診療ではなかなか伝えきれないこと、日々思うこと、こどもの病気や発達に関すること、その他院長のどうでも良い雑談等々を、気が向いたときにポツリポツリと綴っていこうと思います。

 twitterとかFacebookはやらないのか?、とよく言われるんですが・・・あの気忙しいところがどうも性に合わないので、のんびりとブログをやっていこうと思います。

 なお、このブログはあくまで「オマケ」です。ブログの更新ややり取りに気をとられて、本業であるクリニックの仕事が疎かになってはいけませんので、更新頻度や内容などはあまり期待しないでください・・・。

 コメント頂くことは可能ですが、基本的に返信はしないと思ってください。あくまでぼそぼそと独り言をつぶやく体で、気楽にやって参りたいと存じます。迷惑コメントは見つけ次第問答無用で削除させていただきます。また、トラックバックは受け付けていません。ご了承ください。

 それでは、気長にお付き合い下さい。よろしくお願いいたします。

プロフィール

かわかみあきひろ

Author:かわかみあきひろ
川崎市高津区子母口497-2子母口クリニックモール2階
かわかみ小児科クリニック
小児科・アレルギー科
院長  川上 章弘

詳しいプロフィールについては、
かわかみ小児科クリニック公式HPの院長紹介
をご覧ください。

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